大局観
- 作者: 羽生善治
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/02/10
- メディア: 新書
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世の中がさまざまな方向に同時進行的に動いている気がする。こんなに「選択肢」が多く,どれを選んでも一長一短,そんなシチュエーションはどこかで経験したなと思ったら・・・,これまさに将棋の勝負ではしょっちゅうのことだった。将棋とはそういうゲームである。そういうゲームに,どっぷりと大学時代に浸かって生活していたわけだから,今の世の中もうまく渡り歩いていけたらいいのだが,なかなかどうしてそうは問屋が卸さないのもまた,世の常ではある。
というわけで,将棋の神様に最も近い場所に居るといわれる羽生が最近出版したこの本に,もやもやっとしたこの世の中をすっきりと歩いていくヒントがあるかもしれないと期待してこの本を手にした。
もし将棋と一切の関わりをもたなかった方がこの本を読んでも,あまり共感できる内容ではないかもしれないな,というのが読み終わった感想である。しかし逆に言えば,少しでも将棋の世界に触れ,将棋の奥深さを知っている人には,羽生が語る一言一言を,今の自分の境遇や世の中に置き換えることも可能な,実に広がりのある本である。まさに羽生の棋士生活25年の区切りであり,かつ人生40年の不惑の年に書き記した足跡は,常人とは別の世界に生きる選ばれた人物の言葉として,頭から降り注いでくるものだった。
これからの大学のありかた
大学破綻 合併、身売り、倒産の内幕 (角川oneテーマ21)
- 作者: 諸星 裕
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/10/09
- メディア: 新書
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桜美林大学で大学アドミニストレーションを研究する諸星さんからの提言が詰まった本です。テレビでコメンテーターとして活躍された方の新書ということもあり,まったく期待をせずに読み始めましたが,将来の日本を支える人材の育成を真剣にそして現実的に見つめていることがひしひしと伝わってきました。
はじめての入学式
岐阜大学に赴任して初めての入学式にのぞみました。大学院連合農学研究科と大学院連合獣医学研究科の入学式で,それぞれ23名ずつの博士課程の学生を迎えた式でした。
「連合」と付いていることからも分かるように,いくつかの大学が共同で博士を養成するシステムの大学院で,岐阜大学の連合農学の場合は静岡大学が,また連合獣医学の場合は帯広畜産大学,岩手大学,東京農工大学がそれぞれの構成大学となっているものです。また,岐阜大学はこの二つの組織の基幹大学となっているため,入学式は岐阜で行われます。つまり,たとえ東京農工大学で日々研究を行いながら博士を修得した場合でも,出身大学は「岐阜大学」となるしくみとなっています。ちなみに,岐阜大学にはもう一つ,大学院連合創薬医療情報研究科という連合大学院があり,こちらは岐阜市立岐阜薬科大学との連合大学院です。
この入学式に出席した理由は,はじめて博士課程に入学する学生を迎えることになったからで,いわゆる主指導教員という立場で招待されたのでした。式では,壇上に並ぶ学長をはじめとする役員の方々の顔をみながら,ようやく大学人として認められたような気持ちが湧いてきて,学生のための式ではあるのですが,こちらもまた大学人としての元服式に出席しているような気持ちがしてきました。
これまで6年半にわたる教員生活で,研究指導した学生の数はなんともはや75人にものぼります。その中には副指導教員として指導した博士課程の学生も6人いるのですが,「主指導教員」という肩書きはまだ経験していませんでしたから,入学式にのぞんで元服式のような気持ちになったのかもしれません。もちろん,入学式の主役はまったくもって学生であって,こちらのことを気にかけている人は一人としていないでしょうが。
とはいってもあくまでスタートラインに立ったに過ぎない状況ですから,なんとか未来の社会を任せられる「博士」をきちんと育て,「学位記授与式」に次にのぞんだ時にこそ,僕にとっての本当の元服式になるのかもしれません。
卒業式を終えて
依然として東北関東大震災の余波は大きく,二次災害ともいえる東京電力福島第2原子力発電所の事故の問題も収束する気配が見えないまま時間が経っていきます。被災された皆さんにはあらためてお見舞い申し上げます。
昨日の25日には恒例の学位記授与式,いわゆる卒業式が行われました。我々の研究室からは4年生が6名,修士2年生が2名がこの日を迎えました。それぞれ,震災の影響もあって社会人となってからも大変な時期が続くとは思いますが,こんな時だからこそ研究室で過ごしたこの1年を思い出して頑張ってほしいと思います。
そして,今年もありがたいことに卒業生から花束をいただきました。本当にありがたいことです。これぞまさに教員として冥利につきます。年々花束が豪華になっていくような・・・。それが今日の冒頭の写真です。この花の輝きを胸に,また来年度に進級してくる新しい学生といっしょに,こちらも頑張ります。
初めての印税
- 作者: 鈴木康夫,木全弘治
- 出版社/メーカー: 丸善
- 発売日: 2010/12/23
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昨年12月23日に発売となった「コールドスプリングハーバー 糖鎖生物学」の第2章と第3章の翻訳を担当しました。翻訳者として表紙に名前が掲載されていることも嬉しいのですが,先日,出版元の丸善から印税のお知らせが届きました。訳者が大勢(28人プラス監訳者2名の総勢30名)ということもありますし,値段が25,200円もするいわゆる学術書ですから,出版部数も540部ということで,いただける印税は学生アルバイトの日給ほどと微々たるものなのですが,生涯初めての印税であることにはかわりなく,とても感慨深いものがあります。
「糖鎖生物学」として扱う分野をほぼ網羅していると思われるこの本は,第1版から大幅に改訂されていますし,第一線で活躍している研究者が翻訳を担当し,原書の誤りもかなり訂正されていますので,糖鎖生物学をこれから勉強しようという方にはお勧めです。
4年越しの成果発表
4年前にこつこつと始めた研究の成果が,ついにようやく「論文」という形で日の目を見ることとなりました。Journal of Biological Chemistryという,生化学の分野では一目置かれている雑誌に投稿したのは,まだ汗をかきながら作業をしていた8月のことでしたから,実に半年にわたる交渉の末に,ようやく受理となったわけです。さすがに審査は厳しく,実験の追加や表現の見直し,引用文献の再考など,いろいろな注文がつきましたが,3回目の手直しの後にやっと出版の許可が下りました。この論文が製本版で出版されるのは4月とのことですが,それまではオンラインで自由に読むことが出来ますので,こちらから是非どうぞ(http://tinyurl.com/63nx7hx)。
この論文は,ヘパリンという硫酸基をたくさんもっている糖鎖の特定の部分だけを認識して,その場所に結合するペプチドを発見したというもので,天然には存在しない12残基の配列からなるペプチドであったため,「HappY(Heparin-Associated PePtide Y)」という名前を付けたということが一つ大きな仕事です。また,論文中でも述べていますが,ヘパリンの機能として知られている抗凝血作用を阻害するはたらき(ただし,薬品として使えるレベルではありません)や,神経細胞に作用する成長因子と競合して神経突起の伸展を阻害するはたらき(こちらは薬品としても可能性があります)をこのHappYがもっているということを実験的に示すことが出来たのも大きな成果となります。このペプチドをバイオツールとして利用することで,目に見える形で実験することが難しいこの分野の仕事が大きく発展することを密かにもくろんでいます。
というわけで,今年に入って受理された論文はこれで3報目となりました。投稿中のものが1報ありますが,現在執筆中のものが4報ありますから,なんとかあと2報を今年中にまとめて年間10報出版の目標をクリアしたいと思います。ちなみに,昨年は5報出版したのですが,すべて他力本願でしたので,今年からはコンスタントに成果を発表していけたらいいなと思っています。今年は厄年ですが,逆転の発想で頑張ります。