大局観

世の中がさまざまな方向に同時進行的に動いている気がする。こんなに「選択肢」が多く,どれを選んでも一長一短,そんなシチュエーションはどこかで経験したなと思ったら・・・,これまさに将棋の勝負ではしょっちゅうのことだった。将棋とはそういうゲームである。そういうゲームに,どっぷりと大学時代に浸かって生活していたわけだから,今の世の中もうまく渡り歩いていけたらいいのだが,なかなかどうしてそうは問屋が卸さないのもまた,世の常ではある。


というわけで,将棋の神様に最も近い場所に居るといわれる羽生が最近出版したこの本に,もやもやっとしたこの世の中をすっきりと歩いていくヒントがあるかもしれないと期待してこの本を手にした。


もし将棋と一切の関わりをもたなかった方がこの本を読んでも,あまり共感できる内容ではないかもしれないな,というのが読み終わった感想である。しかし逆に言えば,少しでも将棋の世界に触れ,将棋の奥深さを知っている人には,羽生が語る一言一言を,今の自分の境遇や世の中に置き換えることも可能な,実に広がりのある本である。まさに羽生の棋士生活25年の区切りであり,かつ人生40年の不惑の年に書き記した足跡は,常人とは別の世界に生きる選ばれた人物の言葉として,頭から降り注いでくるものだった。