寿司因子?

4月8日号の科学雑誌Natureの日本語ハイライト(http://www.natureasia.com/japan/nature/toc.php?n=7290)のタイトルの一つに「寿司因子」と書かれたものがありました。はて,料理としての寿司に含まれる因子とはなんぞや?と思って要約を読み進めてみると,ヒトの腸内細菌の中から海苔などの海藻を分解する酵素をもったものが見つかったが,その腸内細菌が存在している場所は日本人のお腹の中だけだ,というものでした。海苔→日本人→寿司という連想になったのか,それをもって寿司因子というタイトルになった模様です。


タイトルはさておき,人間の遺伝子としては存在しない特定の腸内細菌の酵素が,特定の人種,しかも日本人にだけ恩恵を与えているという結果は,とても興味深いものですが,発信元である論文を読んでみると,いろいろと注意しなければならないこともありそうです。まずは,この研究の対象は日本人13人と北米人18人に対してのみ行ったものであること。それから,確かに北米人の誰からもこの腸内細菌は見つからなかったが,日本人からも13人中わずか5人からだけ見つかったこと。そしてそもそも,この酵素は著者であるフランス人研究者が,海洋細菌からこの酵素を見つけたものですが,その酵素は今回新しく見つかったものではなく,すでに日本人の腸内からとられた細菌で見つかっていたものであって,その腸内細菌が実際に日本人のお腹の中でどのような働きをしているのかまでは全くわからないこと。


厳格に科学的な検証をするとなると,このようなことになるのですが,まあ海藻をよく食べる日本人にはその消化を助けてくれる腸内細菌がいつの頃からか住み着いている,ということが漠然と分かるということも,科学に携わる者の務めなのだと思います。まあ,それにしてもこの腸内細菌は,どうやって親から子へと伝えられていくのでしょうかねえ。そのあたりに,我々食品科学の研究者の出る幕がありそうです。