北村西望による表札のゆくえ

岐阜大学農学部と大学院農学研究科の研究棟の正面玄関に掲げられている青銅製の表札は,「西望白寿」と署名の入ったもので,その字体といいこの署名といい,まさに北村西望その人が書いた表札が毎日出迎えてくれています。北村西望といえば,「長崎平和祈念像」の代表作で知られる美術家で,102歳の長寿を全うされた方ですので,白寿といえば亡くなる3年ほど前に書かれたもの。さぞや美術品としての価値もありそうなものですが,なんとも惜しいことに,ここにこうして掲げられているのも,残り少ない時間となってきました。


というのも,4年前に改組されて応用生物科学部となったこの学部で,農学部生として最後に入学してきた獣医学科の学生が今5年生ですから,この学生たちが卒業すると名称そのものが消えてしまうというわけです。ということで,2年後の4月には取り外されることになりそうです。さらに,大学院は来年4月から農学研究科から応用生物科学研究科に改組されることになっています。


なぜか僕はこの方と縁があって,学生時代に住んでいた下宿の玄関には,西望から贈られたという彫刻が鎮座していて,毎日眺めながら通ったものでした。そして今は,毎日この表札を眺めながら出勤しているというわけです。一度見たら脳裏から離れない独特の書体で書かれたこの西望の表札。まさに芸術品を玄関に飾っている訳ですが,なんとも学生にはそうしたことが伝わっていないようで,ちょっと残念です。


いずれにしても,たとえ取り外されることになっても,どこかに展示しておくような粋なはからいを望んでいます。