日本語をみつめること

日本語に主語はいらない (講談社選書メチエ)

日本語に主語はいらない (講談社選書メチエ)


大学での仕事の大半は,人に何かを伝えることと言っても過言ではないかもしれません。とにかく,研究にしろ,講義にしろ,学生に対してにしろ,社会に対してにしろ,ありとあらゆる場面で行っていることを一言で言い表せば,僕が考えていることイメージしていることをひたすら伝えようとしているのです。そしてその手段といえば,言葉によってということになるのですが,これがなかなか難しい。もちろん日本語で伝える場合においてもそれは同じ苦しみを味わっています。むしろ,日本語で説明しようとするときの方がより難しいと感じているかもしれません。


そんなとき,この本「日本語に主語はいらない」を読んでなんだか少し気が楽になりました。「文法」の中でも根本的な基本と考えられている「主語」の呪縛から開放される根拠を,とうとうと述べたものですが,なんとなく「日本語解説書」的な本に感じていた違和感が,すっと消えていくような感覚を味わうことが出来ます。日本語文法とは何かというところからまずは述べることによって,正しい日本語を伝えるためのそもそもの現代日本語とは何かを解き明かそうとしています。


筆者である金谷武洋さんは,モントリオール大学の教授ですが,この方の考え方の根底に流れているのは,1960年に書かれた三上章さんの「象は鼻が長い」という本だそうです。実はこの本はいまだに読者が絶えない本だそうで,2006年に第29刷目の本が出されていて,本屋さんで買うことが出来ます。ちなみに今僕は読んでいる最中ですが,多少の表現のまどろっこさはあるものの,うなずきながら読むことが出来ます。


象は鼻が長い―日本文法入門 (三上章著作集)

象は鼻が長い―日本文法入門 (三上章著作集)


もっとも,こうした考え方に反対する学者もたくさんいるそうで,まあ日々変化する生きた「言葉」を相手にする以上,致し方ないかなとも思います。本当に,日本語は難しいです。