スティーブ・ジョブズの魅力

アップル社が2001年に発表したiPodに続くヒットを狙った新製品,その名も「iPhone」を発表しました。年が明けていろいろなところで(シスコ社からの登録商標権侵害での提訴も含めて)話題になっていましたので僕もその名前は知っていましたが,iPhoneが何ものであるのかを知るために,名物となっているスティーブ・ジョブズのスピーチを直接聞いてみるのが早いと思い立ちました。そこで,アップル社のホームページの中から,恒例となっているマックエキスポ(ちなみにこの日を境に,アップルコンピューター社からアップル社に社名を変更しました)のCEO講演を探し出し,ポチッとクリック(http://events.apple.com.edgesuite.net/j47d52oo/event/)。


いやはや,商品を宣伝するジョブズの話の巧みさについ魅かれてしまい,1時間20分という長いスピーチを結局最後まで見切ってしまいました。もちろん英語で講演してはいるのですが,まさに世界に向けた講演とみえて,ゆっくりはっきりと丁寧に説明していますから,英語の教材としてそのまま使えるほどわかりやすかったです。そして見終わった後に・・・,iPhoneが欲しくなったのは言うまでもありません。使われている技術の新しさは,それほど目を見張るものではないかも知れませんが,200にも及ぶ特許を携帯電話に統合するその発想力たるや。なにしろ,携帯電話を動かしているのが,OS X(マックのOS)だというのですから。なるほど,YahooもGoogleAT&Tも全部見方につけてしまうはずです。残念ながら日本を含むアジアでの発売は来年になるようですが,まずはこの7月に発売されるアメリカでの評判を待つことにします。何より,年末にiPodを購入したばかりの身でもありますし・・・。


スティーブ・ジョブズといえば,スティーブ・ウォズニアックと共に伝説のアップルIというコンピューターを製造・販売した人として知られています。このアップルIの何が伝説かといえば,当時彼らの私財をなげうって愛好家のために生産したため,そもそも200台しか存在せず(170台しか売れていません),その後アップルIIの登場でアップグレードキャンペーンのため売れたものも回収されてしまい,現在ではほとんど存在していないことになっています。昨年放送された「開運!なんでも鑑定団」では,なんと600万円の値がつけられていました。彼らの希代稀なる作品のすばらしさは,アップルIIを引っさげて株式公開をしたと同時に2億ドルもの巨額の富を獲得したことでもわかります。


とはいえ,20代のそうした華々しいジョブズの成功の後には,立ち居振る舞いに耐えきれなくなった部下たちからの復讐として,アップルコンピューター社の社長を解任されるという事件まで引き起こしました。まあ,ジョブズがいなくなった途端にアップルの業績は不振に陥り,ついには最高経営責任者として呼び戻されるわけですが,その後のiPodに代表される成功は周知のところです。おもしろいのは,呼び戻される時のジョブズの給料です。なんと現在も,年収たった1ドルという契約を続けています。「世界で最も安い給料のCEO」として話題に上ることしばしですが,実は成功報酬としてボーナスがもらえる契約を結んでいますので,大金持ちであることにかわりはありませんし,自分が経営する映画会社ピクサーが昨年にはディズニーに買収されたこともあって,現在ディズニーの筆頭株主であることは意外に知られていないかもしれません。


そんな,矢継ぎ早に成功を収めるジョブズの何がすごいのか。今回そのスピーチを聞いてみて,なんとなくわかるような気がします。とにかく,聞いている人を飽きさせない話術は,大衆の前で話すときばかりでなく,ライバル企業との突然の提携などを持ち出す際にも功を奏しているに違いありません。ちなみに,僕の机の引き出しには「Stay hungry, stay foolish.」という結びで知られるジョブズスタンフォード大学での卒業式スピーチの原稿がしのばせてありますが,学生への指導の際に大いに参考にさせてもらっています。