信念と行動

牡蠣礼讃 (文春新書)

牡蠣礼讃 (文春新書)


1月13日の毎日新聞の余禄(朝日新聞天声人語に相当)欄で,この本が紹介されていました。最近のノロウイルス騒ぎの余波を受けて,安心して牡蠣を食べる方法を調べるべく,記者がこの本を手に取ったという内容でした。


この本の作者である畠山重篤さんは,実は僕が個人的によく知っている方です。というのも,仙台で僕が下宿をしていた時に,同じ屋根の下の隣の部屋で一緒に下宿をしていたのが畠山さんの息子さんだったからです。畠山さんは,宮城県気仙沼にほど近い唐桑町で,帆立や牡蠣を養殖をしている方ですが,消費者が安心しておいしい牡蠣や帆立を食べられるようにするためには,生産者としての養殖家は何をしなければならないのかということをいつも真剣に考えている方で,なおかつ研究者も真っ青の研究熱心な方です。その研究者肌の一端を垣間見せてくれたのが,気仙沼湾に面する唐桑町を流れる大川上流の室根山への植樹活動でした。これは「森は海の恋人」をキャッチフレーズに,畠山さんが代表を務める「牡蠣の森を慕う会」が中心となって行われた活動です。海へ流れ込む川の水がきれいになって初めて,そこで養殖されている牡蠣や帆立が健康に安全に育つということを北海道大学などと共同で研究し,そのためには川の源流の森林を健全に育てることが何より大切だということを実証する活動を畠山さんは続けてこられました。こうした活動は,朝日森林文化賞や緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰などの数々の賞を受賞されていることからも,高く評価されています。


自分の信念が正しいということをさまざまな人々と共有する畠山さんの活動は,われわれ研究者にも大いに参考になり,刺激になります。今は根も葉もない風評被害で牡蠣の養殖家のみなさんは大変なことになっているかもしれませんが,ノロウイルスは牡蠣の中では増殖しないことや,養殖場では大腸菌のほかウイルスの監視までやっている(こんな手間をかけて出荷しているのは日本だけ)ことが,牡蠣好きの日本人に徐々にでもきっと広まっていくことでしょうから,もうしばらくの辛抱です。幸い,日本のマガキの旬の季節は3月です。


ところで,英語でRの付かない月(5月から8月までの夏の間)の牡蠣は食べるなとよく言われますが,それはヨーロッパで養殖されているヒラガキのことで,日本で養殖されているマガキやイワガキにはあたりません。というのも,ヒラガキの産卵の時期が「Rの付かない月」でしかも殻の中に産卵し,どろどろした卵が気味悪いのと牡蠣自体もやせてまずいために,夏の間の牡蠣の産卵の時期はやめておけと言われているわけですが,マガキやイワガキ卵子精子も海中に放出してしまうので、こんな現象は起きないそうです。つまり,日本では1年中おいしく牡蠣が食べられるというわけです。二枚貝アレルギーのため牡蠣を食べることの出来ない僕には,うらやましい限り。