思わぬ訪問者

昨夜、我が家の猫が窓の外のベランダを気にしながら、しきりに点検よろしくカーテンをまくっては眺めていることには気付いていた。しかし、また何か小型の虫が飛ぶ様に興味を示しつつも、網戸のせいで外に出ることが出来ないと我々にアピールしているものだとばかり思っていた。


一夜明けて、洗濯物を干そうとベランダの窓を開け、外に出ようとする嫁さん・・・「きゃあああ」とまるでベランダで下着泥棒とでも遭遇したかのような悲鳴をあげつつ、後ずさりする姿。また大げさな、昨日のうちに泥棒でも侵入したのかいな、と思いつつマリナーズエンゼルスの試合(MLBの生中継)に気を引かれながらベランダに向かってみると・・・果たして、一瞬何がどうしたのかこちらも凍りついてしまった。


さすがに、泥棒さんがちょこんとすましていたわけではなかったが、あろうことか、全長1メートルはゆうに越える「蛇」がこちらをにらんでいるではないか。おいおい、ここは3階だぞ。お隣さんから逃げたものか、はたまたカラスが運んできたものか。我が家の猫の昨夜の行動からして、一晩このベランダで過ごしたようである。いずれにしても、このままというわけにはいかないので、早速捕獲作戦の開始。こんな時に最初にすることは、とりあえず、じっと観察。相手の様子を知ってから行動に移すべし。というわけで、しばし目をのぞき込んでみると、なんともかわいい丸く黒い目をしている。で、あんまり動かないので、もしやカラスに運ばれてきたショックで死んでしまったかと背中をつつこうとした途端、おもむろに顔を背けた。生きていることは確かで、なおかつ、それほど凶暴ではない。


そこで、第2段階。蛇をまじまじと眺めたこともなく、ましてやマムシぐらいしか識別出来ない身ゆえ、この蛇が毒を持っているのやら居ないのやら、とんと見当がつかない。そこで、まずは炭挟みバチでつかまえることに。


ずいぶんとおとなしい蛇らしく、バチを近づけてもぴくりとも動かない。それをいいことに、いっきに挟んで持ち上げて・・・と思った途端に、蛇は逃げようとし、後ろに引き始めた。その力たるや、すぐにこの道具では役に立たないことを知ることとなった。そこで二の手は、と適当な道具が近くにあるでもなく、結局素手で捕まえることに。


まあ、おとなしそうな輩だし、頭の後ろからそっと捕まえて、口を開かないように頭までその手をスライドさせて押さえてしまえばなんとかなるだろう。ということを何度か頭の中で復唱しつつ、いざ実行。すると、なんとまあおとなしい良い子だこと。一瞬抵抗したものの、これは無理だと悟ったのか、特にそれ以上暴れることもなく、すんなりと用意したビニール袋の中へ。持ち上げた時、なんとも言えない重量感と、しっぽを巻き付けられたらどうするんだという恐怖で、ちと動揺してはいたことはまあ良しとしよう。無事にすんだことだし。


捕獲に成功した後は、ひたすらインターネットを使って我が家の珍客の「同定」作業。こんなとき、一家に一そろいの動物図鑑でもあればどんなにか便利だったろうに。しかし、意外にすんなりお客さんの名前が明らかに。なんのことはない、日本全国どこにでもいるアオダイショウだった。もちろん、田舎でも見たことはあるが、子供時分であったこともあって、アオダイショウといえばずいぶんと大きな蛇(最大2mほどになるらしい)という印象しかなく、ましてや3階のベランダに突如現れるなんてことも想定していなかったから、アオダイショウだとは思わなかった。


かくして、この辺りに棲むアオダイショウが、何かえさを探して3階にまでするすると登ってきてしまったに違いない。なにしろ、子供の頃のアオダイショウは、木登りがえらく得意だそうだから。というわけで、すぐ裏の神社に放してやることに。さすがに何かえさをやるというわけにはいかないが、うっそうとした森の中の神社に放してやれば、素手で頭を押さえてしまったことの償いぐらいにはなるだろう。そういえば、アオダイショウといえば、我が田舎では、米蔵に棲んでネズミを捕ってくれるありがたい蛇ということで、家の守り神として見て見ぬふりしていたことを思い出した。この辺りでも、そのような扱いを受けているのだろうか。


守り神にこうして対面したことだし、何か良いことでもあるのかと思って、記念に「蛇」を写真に収めた。その写真をしばし眺めて見ると、なんともチャーミングな表情。ま、しかし、写真の公開は・・・、やめとくことにしよう。