最近読んだおすすめの本

今日は,この1年の間に出版された本の中で,科学界を代表するような第一線の研究者が著した本で,僕自身が読んで強く印象に残ったものを紹介します。


まずは,いつの間にか話題に上らなくなってしまった感のある,新型インフルエンザを解説した本です。これは,まさにインフルエンザウイルス研究の世界最先端を突き進む河岡先生が直接発信する情報なだけに,非常に説得力があり,また非常にわかりやすい説明がぎっしり詰まった本です。直接身に迫る危険を感じている時にだけ読むのではなく,いざというときのためにも,インフルエンザウイルスの知識を持っていたい人におすすめです。

インフルエンザ パンデミック―新型ウイルスの謎に迫る (ブルーバックス)

インフルエンザ パンデミック―新型ウイルスの謎に迫る (ブルーバックス)


次は,これまた免疫学の第一人者である岸本先生が,免疫学のはじまりから最先端の現在の成果までを丁寧に説明している本です。抗体医薬や自然免疫のいまが分かるといっても過言ではないと思います。ブルーバックスながら,大学での講義に参考書として紹介することもできるような,非常にクオリティの高い内容でした。

新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異 (ブルーバックス)

新・現代免疫物語 「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異 (ブルーバックス)


続いては,第63回毎日出版文化賞(自然科学分野)を受賞した本です。実はこの本の著者は,僕がアメリカに暮らしていた3年の間,ずっとお世話になっていた方で,現在は理化学研究所で働く,これまた第一線の研究者です。毎日出版文化賞は言わずと知れた日本を代表する権威ある賞ですが,このときの文学・芸術部門での受賞が村上春樹さんの『1Q84(BOOK1・2)」であったと聞けば,この本がいかに研究者離れした傑作か,はたまた世間にインパクトをもって受け入れられた本かということが想像されるというもの。ちまたには,最近特に「脳」とつく本がなぜだかあふれかえっていますが,そうした本とははっきりと一線を画した感のある著作で,ある意味著者自身が,閉塞感漂う「脳科学」に一石を投じているともいえる内容です。著者ご自身の専門に基づいた内容ではあるものの,エッセイ調の語り口での展開におもわず引き込まれていきます。

つながる脳

つながる脳


最後は,昨年亡くなられた戸塚洋二先生ご自身が,がんとの闘病記録をブログページに書き綴っていたものをまとめた本を紹介します。とはいっても,単なる闘病記が時系列に並んでいるだけのものではなく,まさに知の巨人がこの世に残してくれた随想録といった趣です。戸塚先生といえば,世界で初めて素粒子ニュートリノに質量があることを発見した研究者であることは言うまでもありませんが,専門分野の研究者のみならず,広い分野の科学者の方,はたまたフィールドであったカミオカンデの地域住民の方々からも愛されていた方だということは,亡くなられたときに多方面から悲しみが寄せられていたことからもうかがい知れます。そんな人間的な魅力がたくさん詰まった先生のご自身が綴った本ですが,これを読み進めながら戸塚先生に惹かれれば惹かれるほど,亡くなられたことが残念でなりません。あらためて,ご冥福をお祈りいたします。

がんと闘った科学者の記録

がんと闘った科学者の記録